寺 田 典 生

高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科 教授

 

高知慢性腎臓病(CKD)病診連携協議会発足にあたって

寺田典生 今回高知市医師会の諸先生方のお力を頂き、高知慢性腎臓病(CKD)病診連携協議会が発足しました。現在までの日本腎臓学会のCKDに対する取り組みと、今なぜ高知市でCKDネットワークが必要とされているのかを概説させて頂きたいと存じます。

2007年12月末現在、全国の血液透析患者は27万5,000人を超え、07年には新たに3万6,900人余りが透析導入となり、その増加が問題となっています。そのため日本腎臓学会では05年にCKD対策委員会をつくり、日本人の推定糸球体濾過率(eGFR)の計算式を定める一方、「CKD診療ガイド」を作成し、全国各地でCKD対策キャンペーンを行ってきました。その中で、かかりつけ医の先生方や一般市民にCKDの怖さ、そして非常に多い疾患であることを訴えてきたわけです。08年4月には厚生労働省による「CKD重症化予防のための戦略研究」が日本腎臓財団を中心に始まるなど、国としてもCKD対策を重視するようになりました。

近年、CKDの治療法が確実に進歩し、「腎臓病は治らない」という従来のイメージから、「腎臓病はコントロールできる」ということが明らかになってきています。また、腎臓病が進むと透析導入患者が増えるとともに、心血管イベントや死亡率までが高くなること、そのためCKDを早期に治療することで透析導入を遅らせるだけでなく、死亡率を抑えることができることもわかってきました。これら新たな知見を生かすにはCKDの早期発見・治療介入が必要となるため、腎臓専門医とかかりつけ医とのネットワークがポイントと考えられるようになりました。

CKDの定義はご存知のように、①蛋白尿を含めた検尿異常、②GFR<60mL/min/1.73m2ですから、日本人成人の1,952万人以上、成人人口の19.1%に上ることがわかり、CKDが非常に頻度の高いコモンディジーズであることもわかりました。日本腎臓学会ではCKDを5期に分類し、特にGFRが30~59の3期と、15~29の4期を治療の重点対象としています。

CKDのキャンペーンを行う上で、①非常に数が多いこと、②生命予後に対して驚異であること、③治療法が進歩していて治療が可能であること――の3点を強調しています。特に治療面で重要なのは、早期に治療介入を行えば臨床的寛解が可能であることです。IgA腎症でも早期にステロイドのパルス療法と扁桃腺摘出を行うと寛解率は70%です。一方、レニン-アンジオテンシン系阻害薬を使うことで、予後が改善することも大規模研究でわかってきました。ARBを投与すると4年後の透析導入率が28%下がるといわれます。また、クレアチニン値が1mg/dlの初期に治療を開始するとより効果がありますが、1.9mg/dlのような進んだ状態でもARBによる血圧コントロールで予後が改善することがわかっています。

同時に、CKDは腎臓だけでなく心血管病変ならびに死亡率を高めることも実証されています。GFRが低下するにつれて心血管イベントの発生率が2~3倍も高くなります。また総死亡率も3~6倍に上がります。CKDは腎臓だけでなく心血管病変や死亡の重要な危険因子、つまり“心腎連関”であることがわかってきました。したがってCKDはより早期に、尿蛋白あるいは微量アルブミン尿の段階で積極的に治療介入することで、合併症や腎障害の進行を防ぎ、患者の生命予後を改善できるということになります。

  四国で末期腎不全の割合が高い原因の一つとして腎臓専門医の不足が考えられます。関東全体では約3,000人ですが、四国4県では250人前後にすぎません。特に高知県は日本腎臓学会の専門医が20数人、日本透析医学会の専門医も30人ほどです。ところが高知県内のGFR50以下の患者数は3万人近い(26771人、H17.10.1現在の成人人口652959人×4.1%)と考えられ、とても専門医だけで診ることは不可能です。高知県における腎疾患治療レベルの向上には、かかりつけ医と腎専門医との緊密な腎疾患診療ネットワークの構築が急がれる所以です。高知市医師会の諸先生方のお力をお借りして是非このネットワークが有効に活用されることを祈念いたします。